最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)328号 判決 1948年7月20日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人相馬喜作の上告趣旨は末尾添附別紙記載の通りである。
しかし日本国憲法及其施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律は相當細かに刑事訴訟の採證に關する規定を設けて居るに拘らず所論鈴木證人の證言の様な場合に付き何等特に規定する處がない、刑事訴訟法にも無論何等の規定もない、されば右の様な場合原審は公判における證言が真実であって所論聽取書記載の供述が強要によるもので虚僞のものであるとの心證を得たときはこれを證據に採ってはいけないことは勿論だし又此の點に付いて確たる心證を得ないときはこれに關し特に證據調をする必要ある場合もあるであろう、しかし公判における證言が信じられず聽取書の記載が真実であるとの心證を得たときはこれを證據に採っても差支ないものといはなければならない。
原審が特別の證據調もしないで所論聽取書の記載を證據に採ったのは右最後の場合であったからであろう。
前記の如く何等規定のない現行法の下において原審が論旨に要求する様な措置を採らなかったことを以て違法なりとすることは出來ない、其故論旨は理由がない。
よって上告を理由なしとし刑事訴訟法第四百四十六條に從い主文の如く判決する。
以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)